2018年12月25日 (火)

【読書メモ】習近平のデジタル文化大革命(講談社+α新書) [川島博之(著)]

Photo

◆習近平政権のロジック分析は面白い◆

中国の光と闇でいえば闇の側にスポットを当てた本。
習近平政権はITやAIを活用して超監視社会を作っているという話。

正直、中国が監視社会であろうが勝手にやってくれればいいし、そう簡単には中国は倒れないと思うけど、2つほど面白い話があった。

【面白かったポイント1】
習近平政権がグレートファイアーウォールで情報統制し、海外情報が取れなくなっていることについて、若手金融マンが「生き馬の目を抜く国際金融の世界を生き抜くことなんてできない」と指摘している。
金融では中国は力を落とすだろうと思われる。


【面白かったポイント2】
なぜ、習近平政権が強権政治をするかというロジック。
習近平政権の役割は、不動産バブルのソフトランディングで共産党政権を維持すること。
→必然的に景気は減速する。
→金持ちになれない民衆の怒りをなだめるために汚職追放をやるしかない。
→習近平は恨みを買う。
→終身国家主席になることで身を守るしかない。

そういう意味では、終身国家主席に就任するのは、強さというより弱さの現れかもしれない。

また、この政治分析において、王岐山を副主席にしたのは、習近平が死んでも主席になることは出来ず、確実に報復をするポジションにある王岐山を権力安定化装置にするためという指摘は興味深い。
(王岐山は高齢で常任委員でもない)

こうした政治分析の鋭さは大したものなので、中国の権力構造を理解する一助になる本と思われる。

2018年12月20日 (木)

【読書メモ】公文書問題と日本の病理 (平凡社新書) [松岡資明(著)]

◆書籍として生煮え◆

Photo

著者は日経新聞の記者として、政府の公文書管理の調査検討委員を務めている。
公文書管理の解説書は2011年にも書いているので、「モリカケ騒動」や「日報問題」で公文書管理に注目が上がっているタイミングで焼き直し版を出したということかもしれない。

海外事例など示唆的な内容も多く、公文書管理の対象が行政文書の一部にとどまり、立法資料の管理が不十分といった指摘には学ばされた。

しかし、全体に書籍としての構成が甘く、似たような組織・委員会や法律が脈絡なく出てきて、いま何の話しをしているのか話の筋を追いづらい。
内容の薄さを補うために満蒙開拓団の悲劇で一章を設けるなど、話が飛びまくっている。(雑談としては面白いが、公文書管理の話に絡めるのは無理筋)


私が思うところとしては

公文書管理と公開は民主主義の基盤になる重要な業務ではあるが、今この瞬間の権力者にとっては、政敵に武器を渡すものでしかない。
「民主主義と歴史に資するため」というお題目では制度が骨抜きにされるだろう。

実際、政治権力闘争に情熱のない福田康夫氏や谷垣禎一氏が公文書管理に関心を持ち、権力闘争以外に関心がない安倍晋三氏は特定秘密保護法で骨抜きしたことに現れている。

管理の対象になっている役人も、情報開示は大嫌いだ。
彼らは情報を使ってマスコミをコントロールし、民意をコントロールするという手法を失いたくはないし、意思決定の責任も負いたくはないから。

また、一方で「モリカケ騒動」に見るように、野党が情報を政争の道具にしかしていないため、国民の関心も高まらない。
「総理案件」とか「忖度」などと政権攻撃の手段にせず、「現場レベルの不適切な意思決定が民主主義を害している」という点に絞り建設的な議論をしていれば、もう少しマシな議論になっただろうにと口惜しい。

公文書管理については現実の政治から距離を置いた場所で、静かに、粛々と行わなければ成功しないだろう。

2018年12月18日 (火)

【読書メモ】アンダー・プロトコル(徳間書店) [猫組長(著)]

◆石油ビジネスの実態が垣間見える◆

Photo

元山口組系組長の評論家"猫組長"の自伝的エッセイ。
猫組という組があったかどうかは知らない。

猫組長が投資会社を立ち上げ、成功と失敗を経験し、借金の形として自身のファイナンス知識を差し出し(要は経済ヤクザになったということ)、グレー投資の世界に入っていくという話。

クライマックスは、資源バブル時代に石油取引に乗り出していくところ。
全くコネもツテもない状況から、わらしべ長者のように、世界中の関係者をめぐり、石油取引を始めるところは、著者のバイタリティと行動力の面目躍如と言える。
流石に、ネタバレは悪いので、ここで具体的な話は書かないが、テロや国際政治がからみ個人が石油取引できる構図がわかり、新鮮だった。
(要は反政府運動を援助するために産油国が石油を掘っていない部族に帳簿上の石油の取引権限を与えて援助するしているとか)

ゲスい経済エピソードも多く、大手企業社長が愛人宅で急死したときに、愛人は社長の死が発表される前に株を売ったとか(インサイダー)、人のダークサイドのエピソードも面白い。

おそらく僕は、この経済圏に関わることも、著者と会うこともないだろうけど、著者の著作は読み続けるだろう。
自分が決してリアルに経験できないことを学べるのが読書の役割だから。

2018年12月14日 (金)

【読書メモ】日本の税金 第3版(岩波新書) ["三木義一(著)]

◆中立的立場で書かれた日本の税制度解説書◆

Photo

複雑怪奇な日本の税制を体系的に学びたくて手にとった本。
読んでいると役人や政治家が、いかにその場しのぎで税制をイジってきたかわかる。

最も不誠実だと思うのはサラリーマン税制。

消費税導入の根拠をクロヨン(サラリーマンはきちんと課税されているが自営業者は補足できていない)、つまり「可愛そうなサラリーマンを救う」と言っておきながら、消費税が成立すると舌の根も乾かないうちに、「サラリーマンには手厚い所得控除があるから増税スべし」と手のひらを返したこと(本書P17-18)。
役人なんて、死んでも信じてはいけないことがわかる。

著者は、税制について国民の参加を募るべきで、そのためには税の情報開示をすべき、つまり痛税感を感じさせるべき、という考えのよう。

この点には同意できない。
消費税については、完全な内税化と、例外なき課税をすべきだと考えているから。

理由は、痛税感がなければ税負担は苦にならないし、内税にすることで税の実質的負担は、消費者と事業者(の利益)で適切に分配されるから。
逆に言うと、事業者が「利益を減らしたくないから間接反対」と言っていたのをごまかすために、「消費」税なんて変な税制になっているので。これは本来の「付加価値税」に戻すべきというのが、私の持論。
物を買うのに「罰金」を払うのは、少々理不尽だし、レジで金額が変わるのは消費意欲を大幅に減殺するから。

とはいえ、ブラックボックスになりがちな税を、中立的立場で国民にわかりやすく解説するという意味では、本書は貴重だと思われる。


2018年12月13日 (木)

【読書メモ】ほんとうの憲法: 戦後日本憲法学批判(ちくま新書) [篠田 英朗(著)]

◆戦後憲法論の不毛が見える◆

Photo

憲法における、特に9条の解釈を、憲法学的な文理解釈ではなく、国際法(条約)や既存の各国法制、特に英米法との関係から見つめ直そうという内容。

軍学者の兵藤八十八氏が、加憲(9条の改正ではなく、3項で自衛隊明記で自衛隊を合憲化する憲法改正手法)の合理性が分かる本と紹介していたので読んでみた。

印象としては、安倍総理の改憲論の理論的背景はこの人なんだな、ということ。

現状の国際法では自衛以外の戦闘行為は認められておらず、
日本国憲法は、国際法を守らなかった大日本帝国に噛んで含めて国際法の遵守を求めたものに過ぎず、
9条で禁止する武力行使は、当然、自衛権の行使を含んでいないので自衛隊は当然合憲で、
集団的であれ個別的であれ自衛権に制約があるはずもない、

ということが明晰に描かれている。

戦後日本の防衛を巡る議論の不毛さが浮き彫りになる本。

2018年12月10日 (月)

【読書メモ】サイバー空間を支配する者(日本経済新聞出版社) [持永大 著/村野正泰 著/土屋大洋 著]

◆某大臣にも読ませたい◆

ICTを取り巻く技術や政策を網羅的に整理した本。
タイトルがおどろおどろしいのでジャーナリスティックな扇情的な本かと思えば、丁寧な調査に基づいた良質な本だった。
現在のICTを取り巻く米・中・欧の政策や国家戦略、セキュリティに関する課題などがわかりやすく整理されている。

情報の精度はイランの各施設を狙ったスタックスネットの解説などにも現れている。
従前は「イランの各施設を狙った」「Windows Serverの脆弱性を突いた」「USBを媒介に感染した」といったレベルで理解していた。
本書では、標的がシーメンスのPLC(工業機械の制御コンピュータ)で、核燃料の遠心分離機であることや、仕掛けた組織の情報が典拠をつけて記載されている。

某大臣が読んでいれば答弁でオタオタすることもなかったのに、と残念に思う。
(読んでも理解出来な可能性もあるが)

ICTを制度、政策、セキュリティ面で総合的に理解したい人には必読だろう。

2018年12月 4日 (火)

【読書メモ】中東大混迷を解く サイクス=ピコ協定 百年の呪縛 (新潮選書) [池内 恵(著)]

中東各国の成り立ちや政治動向を歴史的来歴から解説した本。
以前、同シリーズの続巻『 シーア派とスンニ派』を読み、非常に良い内容だったので、この本も読んでみた。

『シーア派とスンニ派』では、イランの国教とも言えるシーア派の成り立ちから、律法学者が支配するイランという国の統治構造が解き明かされ、イランについて理解を深めることができた。

本書(『サイクス=ピコ協定 百年の呪縛』)は、19世紀のオスマントルコ分割に始まる中東国家の成立と混乱を整理している。
本書では、中東での列強の悪事の代名詞である「サイクス=ピコ協定」を導入にしながら、より中東の混乱の元凶に近付こうとしている。

本書で得た新知識としては、サイクス=ピコ協定自体は実行されず、後のセーブル条約やローザンヌ条約で骨抜きにされていること、3つの協約・条約を通じて中東秩序の構築に挑戦し、失敗したということ。

著者は3つの協約・条約を「当時の人類の英知を注ぎ込んだ結果、なおも曝け出さざるを得なかった失敗」と表現している。
なかなか格好いい言い回しでしょ?

現代において中東が問題となっているのは、これらの枠組みが動揺し、欧米にとって都合のいい難民への壁が崩壊し、難民が欧米になだれ込んでいることという指摘は、著者の冷めた知性を感じさせる。

これら2冊はビジネスマンといえども、教養人なら必読だ。

 

2018年12月 1日 (土)

【読書メモ】崩れる政治を立て直す(講談社現代新書) [牧原出(著)]

冷戦後の行政改革を橋本行革から第二次安倍政権まで振り返って整理、評価した本。

行革の成果を行革法案を策定・制定したことより実施したか否かで評価するという視点は斬新。

タイトルに有るように第二次安倍政権を崩れた政治と捉えている。
その根拠をモリカケ問題にもとめている。
つまり、官僚がサボタージュするような安倍政権は崩れた政治だ、官僚は文書管理をないがしろにしたり、リークを繰り返すことで安倍政権にレジスタンスしている、という論理だ。

しかし、これは説得力に乏しい。
そもそもモリカケ問題が政治の大問題という捉え方に違和感があるし、官僚の仕事など昔からいい加減で文書管理は甘く、リークを繰り返して気に入らない政治家を潰してきた。
官僚の無能と傲慢は、安倍政権に始まるわけではない。

また、崩れた政治の立て直し方策として「文書管理の徹底と情報公開」「官僚の人事を官僚組織内の持ち回りで行い、政治家は抜擢人事を行うな(政治主導の否定)」としており、これも首をかしげざるを得ない。

著者は前川喜平氏の「面授腹背」を肯定的に捉えており、倫理観があちら側の人なのだろうと推察される。
(そもそも平成の行政改革は、前川喜平氏のような官僚独善の行政を政治主導にするためであり、人事権を官僚に返上し、前川流に戻すなら改革をしたことにならない)

フォト

最近のコメント

最近のトラックバック

2022年1月
            1
2 3 4 5 6 7 8
9 10 11 12 13 14 15
16 17 18 19 20 21 22
23 24 25 26 27 28 29
30 31          
無料ブログはココログ