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2020年9月

2020年9月 3日 (木)

虚構推理【アニメレビュー】

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今日のアニメレビューは『虚構推理』、作家の夢である講談社文芸部から出ているミステリー小説を原作にしたアニメです。(いいなぁ、講談社文芸部)

推理とあるので、探偵ものですが、特徴は「真実を探求しない」ということにあります。
通常の推理小説は、科学的手法やコロンボのような尋問術を通じて、真犯人という犯罪の真実を暴く知的ゲームにカタルシスがあるのですが、本作は真実には無頓着です。

では、本作の知性とカタルシスは、どこにあるかというと「虚構」の構築にあります。

本作では、主人公の岩永琴子(大学生)が「もっともらしい嘘」を紡いで、相手を丸め込むことができたら事件が解決するという構造を持っています。

琴子は幼少のみぎりに妖怪に誘拐され、妖怪の世界の知恵の神に祭り上げられました。
妖怪世界で起きる事件の多くは、所轄の妖怪や神様が納得して心が落ち着けば解決するので、琴子の役割は、不安がっている妖怪や神様のわだかまりを口八丁で丸め込み、動揺を抑えることにあります。

着眼点にオリジナリティがあると思います。

さて、本アニメのストーリーは、この琴子が「鋼人七瀬」と呼ばれる怪異を消滅させる話になります。
ネットのうわさ話、つまり集合的無意識のようなもので力を得、実体化した、本来は存在しない妖怪である鋼人七瀬を消滅させるために、ネットでのレスバトル(ネットの掲示板やTwitterなどの議論)で、鋼人七瀬は存在しないというコンセンサスを作り出せれば琴子の勝ちです。


とはいえ、ネットの集合無意識が実体化するというのは、リアリティがありません。
そこで、これを解決するために、いろいろな仕掛けをしているのは面白いです。


まずは、主人公が押しかけ女房的にお付き合いしている本作のヒーロー桜川九郎の超能力を活用します。

九郎の一族には、件(クダン)という妖怪と人魚の肉が伝えられています。
件というのは、人間の顔をした牛の妖怪で、死ぬ間際に予言をするという妖怪です。
予言をすると死ぬので、予言一回分の命なのですが、この肉と不老不死をもたらす人魚の肉を混ぜて食べることで、予言して死んでも復活する無限予言マシーンになることができるという設定です。(ただし多くの人は拒絶反応で食べた直後に死ぬ)

ここで、作者はもう一つ仕掛けをします。
予言の意味を、未来を見る力ではなく、未来の可能性の中で、自分に都合のいい未来をつかみ取る能力とズラすのです。
これで、九郎のような件・人魚ハイブリッドは、未来の可能性を操作し続けることで、存在しない妖怪が現れるという、極めて可能性の低い未来を作り出すことができる、としたわけです。

なかなか、うまい設定構築ですね。

本作は、九郎の一族で九郎のライバルにあたる人物が、ネットの集合無意識のエネルギーを利用しながら、件・人魚ハイブリッド能力で鋼人七瀬を生み出したことに対して、琴子がネットのレスバトルで集合無意識のエネルギーを減少させて、九郎の件・人魚ハイブリッド能力を勝たせるというバディものバトルになっています。

こうした理詰めの設定構築力が本作の魅力ですね。。

琴子の設定も凝っていて、彼女は幼少時に妖怪に誘拐されて知恵の神にされたわけですが、その時に隻眼隻足に改造されています。片目と片足を取られているのですね。
片足・片目で立つ姿は、唐傘お化けを思わせます。
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これは、人外の能力を得るために犠牲を払ったという意味もありますが、もともとは古事記に出てくる知恵の神「久延毘古」(くえびこ)をイメージしたものでしょう。
簡単にいえば案山子の神様です。
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古事記では、大国主のところに小人の神が来るけども、その名がわからない大国主が、配下(?)の神に尋ねると「久延毘古なら、知ってるかも」と答えます。
大国主が久延毘古を呼び出しますが、やってきません。
なんで来ないかというと、久延毘古は案山子なので歩けないからです。
大国主が久延毘古のところに行き尋ねると、小人の神は少彦名神だと教えてくれます。
この故事から久延毘古は知恵の神ということになったわけです。

こうした設定の濃密さが本作の魅力ですが、実は私は、あまり乗れませんでした。
知恵を使って真実ではなく虚構を作るミステリーという着眼点は面白いのですが、「嘘でいいなら、何でもありだよな」と思ってしまうからです。

あとアニメは小説のように内心の葛藤など心理描写が薄くなるので、琴子が知恵の神というほど知恵があるように見えないのも惜しいところです。

琴子と九郎と九郎の過去の女たちの型にはまらない関係性など物語としての魅力はあふれているので惜しいところです。

本作のランクとしては
・90点:人類はみな見るべき
・80点:この作品が生まれた時代に生まれて幸福
・70点:アニメファンなら当然の教養としてみるべき
・60点:十分楽しめる
・50点:お好きなら見ても損はない
・40点:ファン向け
・30点:作りに難あり
・20点:お時間が惜しいですよ
・10点:見ることで支障が生じます
・10点以下:存在が社会に害を与えます

のうちの「60点:十分楽しめる」とさせていただきたいと思います。

 

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