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2020年8月 1日 (土)

這いよれ! ニャル子さん【アニメレビュー】

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誰かに求められたような気がしたので、今日は『這いよれ! ニャル子さん』のレビューです。

『這いよれ! ニャル子さん』は、逢空万太さんの原作ライトノベルのアニメ化です。

おおよそ日米戦争以前の米国の作家ハワード・フィリップス・ラヴクラフトの生み出した「クトゥルー神話」と呼ばれる世界観をモチーフにしたお話です。

ラブクラフトの作品は、人知の理解を超えた異形の存在に翻弄される人間の破滅というモチーフが基本です。
その恐怖表現は、恐怖の対象である異形の者は直接に描かず、恐怖に震える人物の手記や伝聞で語られ、結末も当人がどうなったかわからないというもので、余韻もあり心に刺さるものがあります。

例えば、異形の者の気配におびえる人物の手記で、どんどんとモンスターが近づいてくる記述が続いたあと、物語は「窓に!窓に!」という記述で締められているものは有名です。
窓の外に異形の者を見た手記の書き手のその後はわからないというのは、ぞっとするものがあります。

他にも、友人のウォーランと洞窟の探索をする話で、ウォーランは穴に潜り、主人公が地上に残って、有線電話で状況を聞いているという話があります。
クライマックスでウォーランの恐怖の悲鳴が聞こえたのち、電話は静かになり、主人公が必死に呼びかけると、知らない人物の声で

「莫迦め、ウォーランは死んだわ」


ラヴクラフトは、自身のホラー小説のジャンルをコズミックホラー(宇宙的恐怖)と呼んでいました。
未知なる宇宙には、人類の知性を超えた恐ろしい存在がいるということが、彼の創作モチーフだったからです。
宇宙の前に人間は無力だという世界観です。

ラヴクラフト自身は、第二次世界大戦(1939年)より前の1937年に亡くなっています。
まさに科学が自然を圧倒し、人類は万物の霊長とうぬぼれあがっていた時代なので、彼のような、「人間という存在の矮小さ」を描く作品は日の目を見ず、生存中は評価されましせんでした。
彼が評価されたのは1960年代、近代化の失敗が明らかになり、科学万能主義への反省が意識されるようになってからです。

ラブクラフト作品の評価が他の作品と異なる特徴は、その世界観を利用した二次創作的な作品が多く生み出されたということです。
彼の生前から、彼の小説教室の弟子などを中心に、ラブクラフトの世界観を利用した作品が書かれており、ラブクラフト自身もそれを奨励していたことが、主な要因です。

かのアーサー・C・クラーク、『地球幼年期の終わり』や『2001年 宇宙の旅』の著者ですが、彼もラブクラフトの名作『狂気の山脈』のパロディ『陰気山脈』を書いたりしています。

さて、『這いよれ! ニャル子さん』ですが、これはラブクラフトが生み出した人気キャラクター「ニャルラトホテプ」を、ずっこけ美少女にして書かれたパロディ的なラブコメになっています。
ニャルラトホテプの二つ名が「這い寄る混沌(Crawling Chaos)」ということで、これに「夜這い」をかけたのではないかと思います(憶測)。
「クトゥルー神話」は、クトゥルーのキャラやアイテムを使えば、それでクトゥルーなので、定義的には、これも「クトゥルー神話」になるのですね。納得いきませんけど。

物語は、高校生の八坂真尋のもとにニャルラトホテプ星人の美少女ニャル子が現れ、宇宙連合の惑星保護機構のエージェント、まあ宇宙警官みたいなものとして、彼を宇宙の人身売買組織からボディーガードするという名目で、彼につきまとうという話です。

物語構造は、完全なる『うる星やつら』に始まるラブコメです。
主人公のもとに次々と美少女が現れ、正妻ポジションのヒロインがやきもちを焼くということでオチをつける。
本作のオリジナリティは、クトゥルーのモンスターや舞台が登場し、クトゥルー神話に対する知的好奇心が刺激されるというあたりです。
基本的にはクトゥルーを知っているほうが楽しめるでしょう。
予備知識は要求されますが、クトゥルーの使い方の上手さには、知的なパズル感があって楽しいですよ。

このラブコメというジャンルですが、基本的に、主人公がモテてうれしいという読者の願望を、そのまま新鮮にパッケージした、純度100%のエンタメなので、特に人間性や世界の在り方について、深く考察するようなものではありません。
頭を空っぽにして楽しむものです。

そのための装置として、寸止めシステムが採用されています。
主人公は、どんなに美少女に言い寄られても、決して、誰ともくっつかないというものです。
シャレにならない嫉妬や葛藤は排除しないとエンタメとしては重くなってしまいます。
『うる星やつら』のあたるくんは、軽薄で女性に好かれないということで、決して恋は成就しませんし、本作の真尋は「宇宙人、こわ!」と思っているので、やはり誰ともくっつきません。
ラブコメというのは、くっつくまでのドキドキを楽しむもので、くっついたら、それで試合終了です。

まあ、現実はくっついてからが地獄なのですが・・・

 



 

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